冗長性への賛歌

冗長性への賛歌は、人間賛歌。

文京区さんぽ編  -「不連続統一体」との出会い -

管理人は文京区に引っ越して10ヶ月ほどになるのですが、せっかく近所にある名所旧跡をあまり巡っていなかったので、最近は「文京区さんぽ」を開催しています。

先日、三菱財閥3代目の岩崎久弥さんが作った旧岩崎邸庭園に行ってきました。壁という壁に手の込んだ金唐革紙を貼っていたり、柱一つ一つの装飾にまでこだわりが感じられ、素敵な洋館でした。岩崎さんグッジョブ。

概要 | 旧岩崎邸庭園 | 庭園へ行こう。

さて旧岩崎邸庭園の隣には、旧岩崎邸の洋館や和館の雰囲気とはうって変わって、怪しげなコンクリートの塊*1がありました。庭園から直接、しかも無料で入れるということでなんとなく足を踏み入れたところ、こんな面白い展示をやっていました。(まだやってます)

みなでつくる方法―吉阪隆正+U研究室の建築|文化庁 国立近現代建築資料館

図面や模型とともに、各所に吉阪隆正さんの言葉が散りばめられていて、建築についての知識が全く無い私でも考えさせられるものが多くありました。中でもこのブログで紹介したいのは、吉阪さんが提唱した「不連続統一体 (discontinuity unity)」という概念です。彼の言葉を引用すると、このようなものだそうです。

集めることと弘めること
独立を損なわずに統一を与えること
停滞に陥らない安定性
不安に導かれない可動性
二つの矛盾した力、それをそのまま認めつつ
しかも協調を見出すこと。ここに二〇世紀后半の課題を解く鍵がある。

この文章は「冗長性」について考える上で、色々な示唆を与えてくれます。

私たちが暮らす社会には、至るところにルール・法則・型といったものが存在します。法律や校則のように、国や組織の中で明示的に決められたルールから、小さな日々のコミュニケーションで登場するような、暗黙的な作法や型もあります。様々なルール・法則・型を意識的・無意識的に自らに課すことで、私たちは複雑な世界をよりシンプルに把握し、物事の成り行きを予測しやすい状態を作り上げています。予測のしやすい(物事が安定している)状態は、前回や前々回の記事でも書きましたが、冗長性が高い状態に対応します。この安定性は、停滞としばしば紙一重になります。

一方、個々人の独立性を高めて裁量を与えたり、より柔軟なルールで組織を運用していくことは、多くの場合、生産性(効率性)を高めることにつながりますが、可動性が高いので不安と隣り合わせになります。

「二つの矛盾した力(効率性 <-> 冗長性)、それをそのまま認めつつしかも協調を見出す」こと、これはまさに本ブログの大きなテーマです。「ここに二〇世紀后半の課題を解く鍵がある」とありますが、二十ー世紀でもたぶん鍵になるんじゃないかと思います。このテーマは、抽象的に考えると大きすぎるテーマなので、日々の中で「2つの力」がうまく統一されてる場面を見つけたり、実践していけたらなと思ってます。

吉阪さんは建築というフィールドを通して、U研究室や多くの学生たちを巻き込みながら「不連続統一体」を実践されていたみたいです*2。こんな標語も作られていました。

D=どれも
I =いちにんまえに
S=それぞれの
C=コースを
O=おなじ
N=なかまとして
T=ちからをあわそう。
これがDISCONT(不連続統一体)。

  

最後に、書きながらうすうす気付いていたのですが、「文京区さんぽ」と銘打ちながら旧岩崎邸庭園の住所は台東区池之端でしたでも、文京区が発行してるガイドマップにもしれっと載ってるし、なんとなく文京区っぽい名所なのでOKということで、「文京区さんぽ」だったことにします。

冗長性を大切に。

*1:怪しい建物ではなく、国立近現代建築資料館というところでした。

*2:展示自体はざっとしか見ていないので、吉阪さんの活動についてはアバウトです...時間あるときに著作も紐解いてみたいです。有形学も面白そう。